この内容は、ラジオ番組『EVENING ECHOES』のコーナー【こころのいばしょ】(まえばしCITYエフエム 84.5MHz)放送日:2026.3.11 にて、石黒やちよが解説した内容をもとに制作しています。
🎧 オープニング
不登校に直面したとき、多くの親御さんは自分を責めてしまいます。
「私の育て方が悪かったのか」
「もっと優しくできていたら…」
そんなふうに、出口のない道を一人で歩き続けてしまうことがあります。
今日は、不登校という現象の奥にある「根本的な構造」と、知らず知らずのうちに私たちを苦しめている「親を責めがちな文化」についてお話しします。
これを読むことで、
「ああ、こどものせいでも、私のせいでもなかったんだ」
と、少しでも心が軽くなるように。
🎧 0. 社会構造:不登校を生みやすい“土台”
不登校は、個人の問題ではありません。
その背景には、社会全体の構造があります。
- 同調圧力の文化
- 個別最適化が難しい学校の事情
- 支援資源の不足
- 親を責める文化(親ブレーム)
この“社会の土台”が、子ども・親・支援者すべてに影響を与えています。
🎧 ① 不登校の根本構造:4つの階段
不登校は突然起きるわけではありません。
4つの段階を経て進んでいきます。
● 第1段階:潜在的脆弱性(愛着・情動調整・特性)
ここには、本人の努力とは関係のない「3つの数字」が隠れています。
愛着のばらつき(約30%)
世界的な研究では、安定した愛着で育つ人は約66%。
つまり、3人に1人は揺れやすさを持って育つのが自然な姿です。
情動調整の難しさ(約10%)
感情をなだめるのが少し苦手な「情動調整の不全」は、10人に1人程度。
先天的な特性(約10%)
HSPや発達特性なども人口の約10%。
これらが重なると、
ストレスに対する“心のコップ”があふれやすい状態になります。
● 第2段階:環境とのアンマッチ
学年が上がり、学校の環境が複雑になると、
抑え込んでいた特性が限界を迎え、
身体症状(腹痛・起立困難)として現れます。
これは怠けではなく、生体的なSOSです。
● 第3段階:誤った介入による悪化
ここで「精神論」や「登校刺激」が入ると、
子どもの最後の砦である安全基地(家庭)が崩れてしまいます。
● 第4段階:固定化と膠着
親子ともに傷つき、外部への信頼を失い、
不登校が長期化していきます。
実際、長期ひきこもりに移行した家庭の共通点は、
- 医療につながっていない
- 公的支援につながっていない
という“孤立”でした。
🎧 ② 親ブレーム文化の正体
支援の現場で、
「あなたの関わり方のせいです」
という空気感に晒されることがあります。
これを親ブレーム文化と呼びます。
なぜ専門家や支援者は親を責めてしまうのか。
心理学者アリシア・リーバーマン教授はこう述べています。
「支援者が親を責めるのは、支援者自身の無力感からの防衛反応である」
支援がうまくいかないとき、
支援者もまた「自分の力が足りない」という事実に耐えられず、
無意識に「親が悪い」という物語を探してしまう。
これは専門家だけでなく、
祖父母、親戚、近所の人にも見られる“社会的反応”です。
🎧 ③ 親もまた「愛着の連鎖」の中にいる
ここが今日の核心です。
親は、子どもの問題の“原因”ではありません。
親もまた、
愛着の連鎖の中で生きてきた当事者です。
「安定愛着66%」という数字を思い出してください。
親の3人に1人もまた、
不安定な愛着の中で育ち、
自分自身の安全基地を持てずに苦しんできた背景があります。
親の不安や情動調整の癖は、
「性格」や「未熟さ」ではなく、
その人がかつて得られなかったケアの結果。
つまり“背景”にすぎない。
🎧 ④ 親ブレーム文化が生む“沈黙”と“悪化”
親が責められると、親は本音を言えなくなります。
- 子どもの状態を正確に伝えられない
- 親の不安を隠すようになる
- 支援者に相談しなくなる
結果として、
支援の質が下がり、不登校はさらに悪化します。
そしてこれは、
支援者自身もまた「構造の被害者」であることを示しています。
🎧 ⑤ 息子の言葉:根っこの理論
最後に、息子が言ってくれた言葉を紹介します。
「外で何があっても、親が味方なら大丈夫。
でも、親が味方じゃないと、味方ゼロになって根っこがグラグラしちゃうんだよ。」
この言葉を聞いたとき、私はハッとしました。
不登校の解決とは、
子どもを学校に戻すことではなく、
- 子どもにとっての安全基地を整えること
- その最大の環境である“親自身”を整えること
これが最短の道であり、すべての出発点です。
🎧 エンディング
親を責める文化は、
親を沈黙させ、
支援の質を下げ、
結果として子どもを追い詰めます。
世界の研究でも、
親単独を不登校の原因とするモデルは支持されていません。
親も支援を受けていい存在です。
自分の代で、
愛着の連鎖・情動調整の連鎖を断ち切る覚悟を持つこと。
そして、
子ども・親・支援者・先生が
「誰が悪いか」ではなく
「どうやって安全基地を守るか」
に視点を戻すこと。
今日のお話が、
親も子も、ありのままでいられる
安心できる居場所を取り戻すヒントになりますように。
📚 参考文献(APA形式)
愛着理論・愛着の割合(66%)
Ainsworth, M. D. S., Blehar, M. C., Waters, E., & Wall, S. (1978). Patterns of attachment: A psychological study of the strange situation. Lawrence Erlbaum.
Bowlby, J. (1988). A secure base: Parent-child attachment and healthy human development. Basic Books.
Cassidy, J., & Shaver, P. R. (Eds.). (2016). Handbook of attachment: Theory, research, and clinical applications (3rd ed.). Guilford Press.
情動調整・メンタライゼーション
Fonagy, P., Gergely, G., Jurist, E. L., & Target, M. (2002). Affect regulation, mentalization, and the development of the self. Other Press.
不登校(School Refusal / School Non-Attendance)
Havik, T., & Ingul, J. M. (2021). How to understand school refusal: A systematic review. Frontiers in Education, 6, 1–15.
Sahoo, S., Khess, C. R. J., & Sinha, V. K. (2023). School refusal behavior: A narrative review. Indian Journal of Psychological Medicine, 45(2), 123–131.
Ulaş, Ö., & Seçer, İ. (2024). A systematic review of school refusal. Current Psychology. Advance online publication.
親ブレーム文化・支援者の防衛反応
Lieberman, A. F. (2007). The emotional life of the toddler. Scribner.
Thompson, R. A. (2016). Early attachment and developmental outcomes. Current Opinion in Psychology, 7, 44–49.
日本の不登校データ
Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology. (2023). Survey on non-attendance at school. https://www.mext.go.jp/