こどもの才能発見の方法──親自身の安全基地のつくり方(第3回 / 全3回)
はじめに
この内容は、まえばしCITYエフエム『EVENING ECHOES』内コーナー【こころのいばしょ】 放送日:2026.9.9 にて石黒やちよが解説した内容をもとに制作しています。
才能発見シリーズの最終回となる今回は、 「親自身の安全基地」 がテーマです。
第1回では、子どもが未来を考えるためには「心の安全基地」が必要だという話をしました。 👉 第1話を見る
第2回では、厚生労働省の適性検査やWISCを使い、 能力 → 価値観 → 興味 → 認知特性 の順番で未来を探る方法を紹介しました。 👉 第2話を見る
そして最終回となる今回は、 親の心が整うと、子どもの未来が自然と動き出す理由 を学術的な根拠とともにお話しします。
親=環境
子どもは、親の心の状態を「環境」として吸収します。
- 親の表情
- 声のトーン
- 不安感
こうした“親の心の揺れ”は、子どもの安全基地に直接影響します。
(発達心理学者バーバー(Barber, 1996)は、 親の心理的統制(不安・過干渉・感情の揺れ)が 子どもの不安・無気力・自己否定感を強めることを示しました。)
文科省の不登校調査でも、 不登校の主因の約半数が「無気力・不安」とされています。
つまり、
子どもの不登校は「子どもの問題」だけではなく、 親子の心の反応パターンの相互作用でも起きている。
これは親を責めるための話ではありません。
親の心の揺れは「悪い」から起きるのではなく、 親自身も過去の環境の中で必死に生き抜いてきた結果として形成されたものだからです。
不登校の背景にある「2つの要因」
① 先天性の特性
発達特性、処理速度、感覚過敏、認知特性など → WISCで見える部分 👉 認知特性について知りたい
② 愛着の揺れ(環境要因)
親の不安、親の焦り、境界線の揺れなど。
発達心理学では、 心の安全基地(愛着)が揺らぐと、子どもは本音を休ませる場所を失う ことが繰り返し示されています(Barber, 1996)。
家庭が安全基地にならないと、 子どもは外のストレスから回復できず、 「無気力」「不安」「不登校」という形でSOSを出します。
親自身にも愛着の揺れからくる「心の癖」がある
しかもそれは後天的に書き込まれたものです。
ここで少し、私自身の話をします。
私は、息子の支援の関係で自分の生育環境を専門家に話したとき、 「毒親育ちなんですね、苦しかったでしょうね」と言われました。
毎日暴力を受ける、ということはなかったですし、 いわゆる“虐待”というイメージとは違っていたので、 正直、とても意外でした。
でも、その言葉を聞いた瞬間、 自分がずっと抱えてきた苦しさに、初めて名前がついた そんな感覚がありました。
「これまでの生きづらさには理由があったんだ」 「私の感じてきた痛みは、思い込みじゃなかったんだ」
そう思えたことで、ようやく自分の心の癖を 見つめ始めることができました。
発達心理学者ボウルビィ(Bowlby, 1969)は、 幼少期の養育経験から「自分はどう扱われるべき存在か」という 心の中のひな形(内的作業モデル)が形成され、 それが大人になってからの人間関係や自己像にも影響し続けると述べています。
つまり、
自分を大切にできない親御さんは、 かつて親からもそう扱われてきた可能性がある。
そしてその扱い方を、無自覚に子どもへ繰り返してしまうことがある。
毒親傾向のある方は残念ながら「無自覚」です。
それは親世代から「当たり前」として受けてきた連鎖だからです。
これは「必ずそうなる」という話ではありません。 あくまで「そういう傾向がある」という話です。
そして何より、 気づけた時点で、この苦しさの連鎖は書き換えられます。
第1話でもお話したように後天的に作られた心の癖であれば、後天的に上書きすることができます。
心の癖は「欠陥」ではなく、生存のための努力の痕跡
毒親育ちの後遺症と言われる
- 慢性的な不安
- 対人不安
- 感情の抑制
- 距離感の揺れ(価値観の押しつけ)
- 自罰的行動
これらは苦しさを生む心の癖ですが、過酷な環境で生き抜くために身につけた努力と工夫の痕跡でもあります。
そしてこの心の癖は、裏返すと資質になります。
心の癖は「裏返すと資質」になる
- 人の表情に敏感
- 子どもの小さな変化に気づける
- 感情を丁寧に扱える
- 距離感を繊細に調整できる
これは、繊細な子どもに寄り添う力になります。
成人愛着研究のメタ分析(van IJzendoorn, 1995)では、 親自身の愛着のあり方が、子どもの愛着や自己像の形成に影響する ことが示されています。
つまり、
親の心の癖は、子どもに寄り添う力へと変換できる。
才能発見は「小さな体験」で動き出す
第2話では、厚生労働省の適性検査やWISCを使って 子どもの能力や価値観の方向性を知る方法を紹介しました。
しかし、テストの結果だけでは 「本当にその仕事が自分に合うか」はわかりません。
キャリア心理学の ハプンスタンス・ラーニング理論(Krumboltz, 2009)では、
適性検査は「答えを決めるため」ではなく、 「探索のきっかけ」として使うもの
とされています。
さらに、バンデューラ(Bandura, 1977)は、
人が「自分にはできる」と感じる最も強い源は、 テスト結果ではなく「実際にやってみてできた」という体験
だと示しました。
だからこそ、
子どもには、小さな仕事体験(プチ仕事体験)を持たせてほしい。
そして、うまくいかなかったときこそ大事です。
- 「思ってたのと違った」で終わらせない
- 「じゃあ、視点を少し変えてみようか」と一緒に軌道修正する
これができるかどうかは、 子どもが「安全に挑戦し、安全に失敗できる環境」にいるかどうかにかかっています。
発達心理学の古典的実験(Ainsworth & Bell, 1970)では、
子どもは、安全基地があるときにこそ、 外の世界を積極的に探索する
ことが示されています。
つまり、
チャレンジと軌道修正を支える安全基地── それが親の役目です。
親も安全基地を持っていい
毒親育ちだと「内側の安全基地」が育ちにくい
だから「外側につくる」ことも大切
毒親育ちの方は、 幼少期に「自分は大切にされていい存在だ」という感覚── つまり 内側の安全基地(自己肯定感) が育ちにくい傾向があります。
これは親を責める話ではなく、 環境の中で必死に生き抜いてきた結果として 心がそう適応しただけのことです。
だからこそ、
親自身が“外側に安全基地を持つ”ことがとても大切です。
- 自分の気持ちを安心して話せる場所
- 否定されずに受け止めてもらえる場所
- 子どもの支援と同時に、自分自身も支えてもらえる場所
こうした「外側の安全基地」があることで、 親が安心して苦しさを外に出して、安心の中で心の苦しさを生む癖が少しずつ整い、 子どもの苦しさを生む心の癖も自然と整っていきます。
公的支援は「親の安全基地」になれる
つなぐん・スクールソーシャルワーカーなどの無料相談を使っていい
親が安全基地を持つ方法のひとつが、 公的な無料相談サービスを使うことです。
- つなぐん
- スクールソーシャルワーカー
- 市町村の子育て相談
- 教育相談センター
- 不登校支援窓口
つなぐん相談ダイヤル(こども・不登校 電話相談)
📞 0270-26-9200
群馬県総合教育センター 子ども教育相談係
※電話相談は無料です。匿名でもOK。保護者の心情的なつらさについても、ぜひご相談ください。
こうした支援者は、 子どもの支援だけでなく、 親自身の心の安全基地にもなってくれます。
「子どもの相談をしているつもりが、 気づけば自分自身も救われていた」
これは、支援現場ではよく起きることです。 そして私自身も、そのひとりでした。
ひとりで負の連鎖を止めるのは絶対に無理
だから、頼ってほしい
親が自分の「心の癖」や「親から受けた過去の傷」に向き合うことは、 脳の生存本能に触れるほどの痛みがあります。
ひとりで連鎖を止めるのはメンタルを壊すほど苦しすぎるので、外部の専門家を頼りましょう。
さっき紹介したような場所が、きっと力になってくれます。
親が支えられると、 親の苦しさを生む心の癖が整い、 子どもの苦しさを生む心の癖も自然と整います。
親が癒されると、子どもも癒される
親が安全基地を持つと、子どもも安全基地を持てる
これが、親子の心の連鎖を断ち切るということ。
才能発見は、ここから始まります。
わずかでも皆さんのヒントになれば幸いです。
参照文献(APA形式)
- Barber, B. K. (1996). Parental psychological control: Revisiting a neglected construct. Child Development, 67(6), 3296–3319.
- Belsky, J. (1984). The determinants of parenting: A process model. Child Development, 55(1), 83–96.
- Belsky, J., Jaffee, S. R., Sligo, J., Woodward, L., & Silva, P. A. (2005). Intergenerational transmission of warm-sensitive-stimulating parenting. Child Development, 76, 384–396.
- Bowlby, J. (1969). Attachment and Loss: Vol. 1. Attachment. Hogarth Press.
- van IJzendoorn, M. H. (1995). Adult attachment representations, parental responsiveness, and infant attachment. Psychological Bulletin, 117(3), 387–403.
- Pearson, J. L., et al. (1994). Earned-and continuous-security in adult attachment. Development and Psychopathology, 6(2), 359–373.
- 数井みゆき・遠藤利彦ほか (2000). 日本人母子における愛着の世代間伝達. 教育心理学研究, 48(3), 323–332.
- Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191–215.
- Krumboltz, J. D. (2009). The Happenstance Learning Theory. Journal of Career Assessment, 17(2), 135–154.
- Ainsworth, M. D. S., & Bell, S. M. (1970). Attachment, exploration, and separation. Child Development, 41(1), 49–67.