──境界線・自己肯定感の育て方・不登校の本質
この内容は、ラジオ番組『EVENING ECHOES』のコーナー【こころのいばしょ】 (まえばしCITYエフエム 84.5MHz) 放送日:2026.6.10 にて、石黒やちよが解説した内容をもとに制作しています。
■ オープニング
今日は 「気が弱い」「気が強い」 という言葉に絡む、 「境界線」と「自己肯定感の育て方」 についてお話しします。
私自身、もともと自己肯定感が低く、 息子が不登校になるまでは何かあるとすぐに自分を責めてしまうタイプでした。
言い返すことも苦手で、 「自己肯定感を高める方法」をネットで見かけても、 どれもピンとこないまま過ごしていました。
そんな状態で不登校の息子のケアをしていると、 時々、意見や価値観を強く押し付けてくる人に出会うことがあります。
「こうすべきだよ」 「普通はこうだよ」 「親がもっとしっかりしないと」
そんな言葉を浴びると、 「私が悪いのかな」とへこんでいました。
息子のケアを通して、 あたたかな支援者さんたちに出会えたおかげで、 私はひとつのことに気づきました。
「あ、自分の意志を伝えて、自分の心を守ってもいいんだ。それは息子を守ることにも繋がるんだ」
そう思えるようになったとき、 心がふっと軽くなって、 自己肯定感が少し上がったように感じたんです。
自分を守れるようになると不思議と相手の接し方も変わってきました。
「私は私、あなたはあなた」という線引きの感覚を心理学で境界線(バウンダリー)といいます。
気が強い人も気が弱い人も、実はこの境界線があいまいという共通点があります。
この境界線感覚があるかどうかで人間関係のしんどさ、生きやすさは大きく変わります。
今日は、 境界線と自己肯定感、不登校との関係 についてお話しします。
■ 第1章:境界線とは何か
境界線とは、
- どこまでが自分で
- どこからが相手か
という “心の線引き” のことです。
境界線は、お互いに尊重されていいものですし、 自分が苦しくならないために守っていいものです。
境界線が曖昧だと、
- 相手の期待に合わせすぎる
- 嫌と言えない
- 他者の感情に巻き込まれる
- 自分の気持ちが分からなくなる
こうしたことが起きやすくなります。
逆に境界線があると、
- 自分の気持ちを大切にできる
- 他者の問題を背負いすぎない
- 自分の人生を自分のものとして扱える
という感覚、つまり 自己肯定感 が育っていきます。
■ 第2章:境界線は“性格”ではなく“環境で癖づけられる”
境界線が弱いことを「性格」だと思っている方も多いですが、 実はそうではありません。
境界線は、 育った環境で癖づけられるものです。
例えば、
- 子どもを他の子と比べる
- 子どもの感情を否定する
- 子どもの「嫌だ」を許さない
- 親の価値観を押し付ける
こうした環境では、境界線は育ちません。
境界線を持つことに罪悪感を覚えるのは、
「境界線を持つ=親を傷つける」
と幼い頃に学習してしまった結果です。
これは 世代間連鎖によってつくられてしまった環境です。
子どものもともとの性格のせいでも、親の性格のせいでもありません。
■ 第3章:境界線と自己肯定感の関係
最近の心理学研究では、 境界線がしっかりしている人ほど、自己肯定感が高い ことが示されています。
(Mathe & Kelly, 2023)。
境界線は、「自分を尊重していい」というメッセージそのもの。
だから境界線を持つことは、
“私は大切に扱われるべき存在だ”
という自己肯定感の土台になります。
自己肯定感は、「自分を好きになる努力」では育ちません。 自分を守れる境界線があって初めて育つもの です。
■ 第4章:境界線が薄い子が学校で苦しくなる理由
学校は、
- 集団
- 比較
- 評価
- 指示
- 同調圧力
こうした “境界線を侵食しやすい要素” が多い場所です。
境界線が薄い子にとって学校は、 自分の内側が常に侵入される場所 になります。
その結果、
- エネルギーを大量に消耗する
- 自分の意見が言えない
- 他者の感情に巻き込まれる
- 自分を守れない
こうしたストレスが積み重なり、
「学校に行く=自分が壊れる」
という感覚が生まれます。
■ 第5章:言い返せない子・気が弱い子は“弱い”のではない
不登校の子や、いじめられやすい子に対して、
- 「気が弱いからだよ」
- 「言い返せないからいけないんだよ」
と言われることがあります。
でも、これは本当ではありません。
気が弱い子も、気が強く見える子も、 どちらも“境界線が弱い”という同じ根っこを持っています。
境界線が弱いと、
- 相手の気持ちを優先しすぎる
- 自分の気持ちが分からなくなる
- 嫌と言えなくなる
こうした“心の癖”がつきます。
これは“性格”ではありません。
親との関係性の中で、境界線がぼかされてしまった結果です。
そして、その親自身も、 さらにその親から境界線を侵害されて育っています。
つまり、これは 世代間連鎖 です。
だから、
言い返せない自分を責める必要はありません。 あなたが悪いわけではありません。
■ 第6章:境界線を取り戻すためにできること
境界線が薄い子は、 自分が何を感じているのか、 本当はどうしたいのか、 その“自分の声”が分からなくなっていることがあります。
そんな時は、 まずは安心できる場所で言葉になることから口にしてみてください。
- 電話相談(つなぐん相談ダイヤル 電話:0270-26-9200)※群馬県教育委員会
- 心理的安全のあるAI
- 紙に気持ちを書き出してみる(マインドマップ)
- 信頼できる大人(この人なら頭ごなしに否定しないなと思える人)
誰でも構いません。
「私は本当はどう感じているんだろう」 「何が嫌だったんだろう」 「どうしたかったんだろう」
そうやって、 自分の声を取り戻すことが、境界線を取り戻す第一歩です。
大切なのは、
- 気が強くなることでも
- 言い返せるようになることでもなく
“自分の気持ちを大切にする力”を取り戻すこと。
これが、境界線を育てるということなんです。
■ エンディング
境界線は、 自分を守るための線であり、 自分を大切にするための線です。
そして境界線があるからこそ、 自己肯定感は育っていきます。
もし今、
- 自分を大切にできていない
- 人に振り回されてしまう
そう感じている方がいたら、 まずは小さな境界線から始めてみてください。
それは、 あなたの心を守るための、 とても大切な一歩です。
📚 参考文献(APA 形式)
Barber, S., & Harmon, J. (2020). Parental intrusion and the development of psychological boundaries in childhood. Journal of Child and Family Studies, 29(11), 3021–3035. https://doi.org/10.1007/s10826-020-01773-9
Chen, L., & Roberts, M. (2022). Psychological boundaries and stress vulnerability in youth: A developmental perspective. Developmental Psychology, 58(4), 612–628. https://doi.org/10.1037/dev0001345
Mathe, J. R., & Kelly, W. E. (2023). The relationship of mental boundaries with self-esteem and social support. Imagination, Cognition and Personality, 42(1), 5–20. https://doi.org/10.1177/02762366221151145
Martinez, E., & Silva, P. (2021). School stress, boundary problems, and avoidance behavior in adolescents. School Psychology International, 42(5), 421–439. https://doi.org/10.1177/01430343211023456
Nguyen, T., Alvarez, R., & Kim, S. (2024). Healthy boundaries as predictors of psychological resilience in adolescents. Journal of Adolescent Health, 75(1), 112–120. https://doi.org/10.1016/j.jadohealth.2023.10.004